島根半島の西部に位置する出雲市十六島(うっぷるい)町。海に断崖がそそり立つ、険しい地形のこの海岸で採れるのが、古代から名産として知られている十六島海苔です。『出雲国風土記』には「紫菜(のり)は楯縫(たてぬい)郡(十六島周辺の古名)がもっとも優れている」との記載があり、奈良・平安時代から朝廷に献納されていました。江戸時代に入ると精進料理や茶席で珍重されるようになり、松江藩主であった松平不昧は、十六島海苔を張り合わせた羽織を着て宴席に現れたという逸話も残っています。高い香りとつや、それに口溶けが特長で、あぶって食べたり、吸い物に入れたりします。正月の雑煮に欠かせない家も多いことでしょう。
「海が荒れてくると、流されてきた海苔の胞子が岩に付着して育つ。口の中で溶ける、柔らかい海苔はここでしか採れないんですよ」長年にわたって十六島海苔を採ってきた樋野(ひの)峰夫さんはそう話します。
海苔が育つ岩場は「海苔島」と呼ばれ、町内のおよそ20軒が代々受け継いできた島を持っています。12月から2月までの厳寒期に行われる、冷たいしぶきを浴びながらの摘み採りは、スパイク付きの長靴を履いていても波にさらわれる危険があり、緊張を強いられる作業です。
『出雲国風土記』にも記載された、
ここでしか採れない海苔