シリーズ
『見つけよう、しまねのコト。』

神と人とをつなぐ舞

神事と娯楽の要素をともに伝える
出雲神楽

 神楽が盛んな島根県内には、およそ230の保存団体があり、「出雲神楽」「石見神楽」「隠岐神楽」に分かれます。その中で出雲地方を中心とする神楽が「出雲神楽」と呼ばれています。
 出雲神楽の特色は、神事としての色合いが濃く、能・狂言の影響が見られる点だと言われています。「神様を楽しませるための舞」が起源とされる神楽は、もともと神に仕える神職が舞っていましたが、江戸時代の中頃からは民衆も関わるようになり、民衆が楽しむものへと変化していきました。その中にあっても、出雲神楽は序盤に場を祓い清める「七座」の神事舞が行われるなど、神に奉納するための神楽を守り続けています。
 一方で、「神能」と呼ばれるストーリー仕立ての舞もあり、「国譲り」や「八岐大蛇(やまたのおろち)」など、出雲地方にゆかりの演目が観る人を楽しませます。松江市鹿島町に伝わる「佐陀(さだ)神能(表紙)」は神職による神楽として伝承されてきましたが、出雲市大社の「大土地(おおどち)神楽」は、江戸時代から民衆が行ってきた神楽として知られており、どちらの演目にも能・狂言の影響が濃く見られます。約70ある出雲神楽の保存団体は、オロチに限ってみても、その姿や立ち居振る舞いに個性があり、そうした伝統が人から人へ連綿と受け継がれています。

出雲神楽を支える神楽面づくり

 出雲神楽は、「七座(しちざ)」「式三番(しきさんば)」「神能(しんのう)」の三部構成になっています。「七座」は面を着けずに舞いますが、「神能」には素戔嗚尊(すさのおのみこと)や大山祗命(おおやまづみのみこと)などの神楽面が欠かせません。面を着け、「赫熊(しゃぐま)」と呼ばれるかつら状の毛を被ることで、人ならぬ神に変化(へんげ)することができるのです。
 出雲神楽の面は、おもに軽くて加工しやすい桐の木から作られます。まずは切り取った用材を荒彫りしますが、目や鼻、口の位置を割り付けて一気に彫り上げるため、失敗が許されない重要な工程です。その後、表面を丁寧に彫り進めて胡粉(ごふん)やベンガラで彩色し、眉毛や髭(ひげ)として馬の毛を植え込んでいきます。赫熊にも馬の毛が使われます。
 出雲神楽を見て育った杉谷茂さんは、中学生の頃からほぼ独学で神楽面を作り続けてきました。その数は2千を超えるそうですが、「昔の人は、良い道具もないのに素晴らしいものを作っていた。先人のような古くなるほど良くなる面を、これからも作っていきたい」と意欲的です。祖父の神楽面づくりを小さい頃から見てきた孫の勇樹さんは、「技を継承したい」と語ります。細部まで丁寧に作られた杉谷さんの面が「神能」の舞に迫力をもたらし、地元のみならず、県外や海外で演じられることもある出雲神楽を支えています。