厳しく切り立った崖、深く切り込んだ入り江、長年の侵食による島の岩穴。大山隠岐国立公園の一部で、遊覧船での海岸巡りも楽しめる松江市島根町の「加賀の潜戸(かかのくけど)」は、『出雲国風土記』に登場する神話の舞台でもあります。
加賀地区の潜戸鼻には、「新潜戸」と「旧潜戸」と呼ばれる二つの洞窟があります。『出雲国風土記』には、佐太神社の御祭神の佐太大神(さだのおおかみ)が新潜戸で誕生したと記されており、昔は「神潜戸(かみくけど)」と呼ばれていました。
大神誕生の時、母神支佐加比売命(きさかひめのみこと)が大切にしていた弓矢が波にさらわれ流されてしまい、「失せた弓矢よでてこい」と祈念すると金の弓矢が流れてきたといいます。支佐加比売命はその弓矢を放ち、射通した岩穴から差し込んだ光に「ああ、かかやけり」と言ったのが、「加加(かか)」の地名の始まりで、後に「加賀」と改められました。
金の矢は勢いあまって隣の島も貫通したとされています。夏至の頃、二つの島の岩穴に朝日が一直線に差し込む様子は、神話の「黄金の矢」を彷彿とさせます。