シリーズ
この美味しいには、
理由がある!

昔々から網漁ではなく釣り漁にこだわる小伊津の漁師たち
その心意気と伝統の技で極上のアマダイを釣り上げる!

優美な姿形、輝くようなピンク色の魚体、尾びれには数本の黄色い縞が入り、つぶらな眼の後ろにある三角形の銀白色斑紋が目を引くアマダイ。ふっくらと太った身の上品な甘さから高級魚のひとつとされ、市場でも高値で取引される魚です。そのアマダイの産地ブランド化に早くから取り組んだのが小伊津漁港です。

小伊津は平田の市街地から北へ向かいトンネルをふたつ越えたところにある港町。昔から上等で大きなアマダイが豊富に水揚げされることで知られています。アマダイはデリケートで鮮度が落ちやすく、美しい体色も放っておくとさめてしまいます。つまり鮮度保持と市場に届ける時間短縮がブランド化への課題でした。これには漁師と漁協が一体となって取り組まなければなりません。漁師は「水産研究会」を結成して勉強し、釣り上げたアマダイの船上での品質管理と鮮度保持を徹底するようにし、漁協は集荷時に漁師から受け取った魚の色や痛みをすばやく判別しサイズごとに6銘柄に仕分け、適切な温度管理で出荷できるようにしました。集荷の際に色がさめていたり傷が多かったりするものは漁協職員が漁師に意見する場面もあったというほど全員が真剣に取り組んだといいます。そして平成9年には出荷体制を見直し、2日かかっていた大阪市場上場を翌日上場に変更。こうした努力の積み重ねによって「小伊津のアマダイ」は評価が高まり、アマダイの需要が高い京都市場にも出荷できるようになりました。

「アマダイ専門の漁船は11隻、30人ほどが従事しています。30年前と比べると船数、従事者とも三分の一ですが全体の売り上げが変わらず推移できているのはブランド化のおかげです」と漁協の高橋岩男さんは言います。

扇形に広がる急な傾斜に家々が林立する小伊津の独特な景観は「出雲のアマルフィ」と呼ばれています。

アマダイはサイズごとに仕分けされ、体長40センチにもなる重さ1キロ以上のLサイズのものは大阪・京都市場に上場され高値で取引されます。

小伊津のアマダイは
伝統漁法「延べ縄漁(のべなわりょう)」に
こだわる漁師があってこそ!

アマダイ釣り漁師として60年のキャリアを持つ服部重幸さんに「延べ縄漁」にこだわる理由をたずねると「それは昔からこの村のやり方だから」と答えが返ってきました。「延べ縄漁」とは釣り漁業の一種で、幹縄となる長い縄におよそ110本の枝糸を結びその先に釣り針を付けたものを十数本つないで海の底に延べ、それを1〜2時間後にゆっくりと引き上げていく漁法です。全部で数千本にもなる釣り針に付ける餌はイカ。アマダイは海底の泥や砂地に作った穴に潜んで通りかかる獲物に食いつく習性がありますので、それを利用した合理的な漁法です。

「朝5時頃に漁場に着いて潮目を読んで縄を延べ、船の上で朝飯を食べてから3〜4時間かけて縄を上げます。今は機械で巻き上げるので楽になりましたが、昔は手上げでしたからそれは重労働でした」と服部さんは言います。
漁師になって3年目という東雄大さんは「ベテランの方たちはアマダイのいる場所を当てるのが上手い。海から見える山の位置を目印にポイントを定めたり、潮や風の流れを読んで縄を延べるのは流石だと思いますね。自分なんかプロッター(GPS)頼りですからまだまだ」と言いますが、1キロを超える大物を釣り上げる嬉しさは格別で、なにより自分が楽しいから頑張れるとにこやかに話します。

京都からUターンして漁師になった東雄大さん。かつての居酒屋経営から釣り好きが高じて転身。「延べ縄漁でのアマダイ釣りは面白い!」と笑顔になります。

漁師たちと漁協が昭和20年代後半から長い年月をかけて協力し合い、鮮度保持と品質管理、市場開拓でその商品価値を高めた「小伊津のアマダイ」。漁師それぞれの思いと誇りをのせ、大きな漁獲を目指す「延べ縄漁」はこれからも変わることなく続いていきます。

■取材協力
 小伊津漁港
 海幸丸(服部重幸さん)
 海雄丸(東雄大さん)