シリーズ
この美味しいには、
理由がある!

安来のいちごは、早摘みしないで
完熟したものだけを収穫
なぜって、それがいちばんおいしいから!
甘くてジューシー、とっておきの春の味覚です

真っ赤に熟した大粒のいちご。甘い香りに誘われて、つい手が伸びてしまいますね。今年もおいしいいちごが店先を彩る季節がやってきました。ところで山陰でいちばん栽培面積が大きいいちごの産地はどこでしょう? 正解は安来市です。安来市では「章姫(あきひめ)」「紅ほっぺ」「かおり野」「よつぼし」といった品種が主に栽培されていますが、特徴的なのはいずれも早摘みせず、じっくりと完熟したものだけを収穫・出荷していること。粒の大きさだけでなく手間ひまをかけてじっくりと甘くした味と香りが自慢で、他の産地との差別化を図っています。そのため流通先も短時間で搬送できるこの近辺だけという、地元だからこそおいしく味わえる逸品です。

左:紅ほっぺ
右:章姫

安来市では10年ほど前から特産のいちごをPRしようと「やすぎのいちご」としてブランド化し、JAや県とともに生産・販売の強化に取り組んでいます。生産の担い手・後継者づくりでは師弟制度でマンツーマンの実技指導が受けられるユニークな新規就農研修を取り入れて就農と定住に向けてバックアップ。地元の観光協会では「苺一縁」というプロジェクトを立ち上げ積極的に情報発信するほか、市内の菓子店などで様々ないちごスイーツを商品化したり、いちごの美肌・美白効果をPR。さらにはいちごのキャラクター「やすぎのいっちゃん」が誕生するなど、まさに市全体で「いちご推し」、盛り上がっています。

こちらは6棟ある土耕栽培のハウス。地熱の温かさを利用し、いちごの苗はぐんぐん成長していきます。

イベント等で活躍する「やすぎのいっちゃん」は、子どもたちにも大人気です。

いちごづくりは基本が大切
まじめにコツコツ、毎日手をかけて

安来のいちごはJAしまね「やすぎ苺部会」66軒の会員農家が生産に携わっています。その部会長をされている高見謙一さんに話を聞きました。高見さんは8棟のいちごハウスで「章姫(あきひめ)」と「紅ほっぺ」の2品種を生産しています。取材した日は1月の終わりでしたがハウスの中はとても暖か。ミツバチも受粉をするため、忙しそうに飛んでいます。案内していただいたのは最新の高設栽培ハウス。細長いプランターのような苗床が1mほどの高さにしつらえてあり、立ったままの姿勢で作業ができるので効率が良く、腰を痛めることもありません。ハウス内は温度や炭酸ガス濃度の管理が自動化され、病害虫対策も施された衛生的な環境でいちごが大切に栽培されているのがわかりました。

高見さんは10年ほど前にUターンされ、実家のいちご農家を継ぎました。忙しい時期は家族総出での作業となることも。

「9月中旬に苗を植え、それが大きくなっておよそふた月で実を付け始め、完熟して収穫できるのが11月の下旬から。それから約半年間は次々に実がなってきますので、この時期は収穫が忙しくて」と笑顔。朝晩の気温が低く日照時間の少ない冬場だからこそ、ゆっくりと時間をかけて大きく甘くなっていくのが安来のいちごの特徴です。栽培で肝心なのはツルが伸び葉が大きくなる時期の管理。高見さんの農場では葉の成長具合やハウス内の環境をデータをとって見える化し、光や温度、養液を調整しています。「今ではスマート化が進み管理も楽になりましたが、品質や完熟の具合はやはり自分の目で確かめるのがいちばん。そこは譲れません」といいます。「手間ひま惜しむことなく、まじめにコツコツと。そして基本を大切に。笑みのこぼれるおいしさで、ご縁とご縁を結びます」が高見さんの信条。おいしいいちごづくり、口にする人の笑顔づくりへの真摯な姿勢が伝わってきました。

作業がしやすくクリーンな環境の高設栽培ハウス。導入する農家さんも増えているそうです。

■取材協力
 安来市農林水産部農林振興課農業振興係
 高見いちご縁