シリーズ
『見つけよう、しまねのコト。』

東出雲のまる畑ほし柿
「飴色の宝石」に埋まる山里

自然環境を生かし、
江戸時代から作られてきたほし柿

 京羅木山や星上山などの山々に囲まれた畑地区(松江市東出雲町)は、約4000本の西条柿の中に農家が点在しています。秋が深まると、ガラス張りの柿小屋に朱色の柿すだれがずらりと並び、一帯が柿色に染まるこの時期には、多くの写真愛好家が訪れます。
 畑地区の西条柿は古い歴史を持ち、戦国時代の毛利軍によってもたらされたとも伝えられています。近年まで樹齢400~500年の老樹が残っていました。柿は接ぎ木で増やすため親木が必要となりますが、昭和30年代初めに島根県が選抜した「優良指定母樹」5本のうち4本が畑地区のものでした。
 粘土質の多い土壌、寒暖差の大きい気候、傾斜地で風通しがよいため霧や霜の発生が少ないことなどが、柿の栽培と加工に適していたのです。
 畑地区には、文化6年(1809)に初めて柿小屋を作ったという記録が残っており、200年以上前の江戸時代後期には、すでに専用の乾燥場を利用したほし柿生産が行われていたことがわかります。明治から昭和初め頃には、西日本各地から商人が買いに来ていたそうです。昭和30年に「畑乾柿生産組合」が設立され、集落あげてのほし柿生産が行われるようになりました。

生産農家が一丸となった、
安心・安全のほし柿作り

 「まる畑ほし柿」は、畑地区で生産されるほし柿のブランド名です。高い糖度と耳たぶのような柔らかさ、表面に白く糖がふいていることなどが特徴で、「飴色の宝石」とも呼ばれる高い品質を、畑地区17戸の生産農家が一丸となって守っています。生産組合の副組合長・冨士本数彦さんによると、安心・安全なほし柿を作るため、柿畑に除草剤は一切使わず、防虫効果のあるハーブを植えたり、有機物をたい肥として使用しているとのこと。全農家が島根県の「エコファーマー」認定を受け、組合員の健康状態や衛生環境にも気を付けているそうです。ほし柿にする際に通常行われる硫黄燻蒸も禁止とし、天日のみで干し上げることにこだわっています。
 今年も柿小屋では、皮むきや吊るしの作業が手際よく進められ、雨音がすればガラス戸を閉め、風がなければ扇風機を回す日々が約1カ月続きます。こうしてできあがった約30万個のほし柿が全国へ送り出されていきます。2015年にはミラノ国際博覧会に出品、美味しさが認められてドイツ・フランスなどへも輸出販売するようになりました。
 「まる畑ほし柿は、この土地で、手作業だからこそできるもの。さらに広めたい」と冨士本さんは語ります。