シリーズ
『見つけよう、しまねのコト。』

木次の桜守 
変わらない美しさを未来へ 木次の桜並木と桜守

多くの苦難を乗り越えてきた
桜の名所には、桜を守る職人がいる

 桜の名所として知られる雲南市木次町の斐伊川堤防桜並木。毎年3月下旬から4月にかけて、全長約2kmにわたって約800本の桜が花がさのように枝を広げて美しく咲き誇り、人々を魅了しています。この地に桜が植えられたのは明治時代のこと。大正時代には土手の保全のため伐採され、また昭和の戦時下に軍部から薪として供出するよう命令が下るなど、町を見守るように立つ桜の木々には、地域の人々との歩み、そして多くの苦難を乗り越えてきた歴史があります。
 この木次町の桜で忘れてはならないのが「桜守」の存在です。雲南市では桜を専門に手入れをする職人「桜守」が、代々この地の桜を守っています。木次町を“桜の町”として盛り上げようと、平成2年から桜守の仕事が始まりました。現在は、3代目となる遠田博さんが桜守を務めています。遠田さんは雲南市大東町で生まれ育ち、長年林業の現場で培った技術と経験を活かして桜のお世話をしています。「適切な手入れをして、美しい桜を保つことが私の仕事です」と遠田さん。
 雲南市の美しい桜が長年保たれている背景には、桜を守る職人の姿がありました。

謙虚に実直に桜を支え、
大切なものを後世へつなぐ

 桜守の仕事は一年を通して行われます。春の花の盛りが過ぎた頃は桜に感謝を込めて肥料をやる「お礼肥」、夏は害虫との戦い、秋冬には枝がバランス良く育つよう剪定など。その他にも、草刈り、施肥、苗木の育成、病気の木の伐採、植樹など、美しい花を咲かせるために日々その作業が続きます。
 「私たち人間にできることは、桜を管理することではなく、あくまで成長のお手伝い。桜並木を未来永劫残すため、やるべきことをするだけです」と真摯に語る遠田さん。自然と対峙する姿は、謙虚そして実直そのものです。遠田さんは初代が残した手入れの基本を守りながらも、常に木の病気に対する対処法などの情報収集をし、改良を進めています。「試行錯誤の連続ですが、課題がある方がやりがいがある。私の代でやれることは全てやります」と笑みを浮かべながらも、強い責任感と熱い想いがあふれています。また、故郷の桜への思いを深めてもらうため、近隣の小学校で桜守の仕事を伝える活動もしています。全ては桜並木を残すため。自然に寄り沿いながら桜を支え、次世代へ手渡す桜守の役割を果たします。
 木次の桜は今年も冬を乗り越え、変わらない美しさを見せてくれます。