この美味しいには、
理由がある!
アニマルフレンドリーな農場の
SDGsに沿った飼育法で経産牛のイメージをくつがえす
雲南市発、究極の赤身肉
「経産牛」と呼ばれる牛がいるのをご存知でしょうか。それは出産を経験した牛のことで、一頭当たり7〜8回のお産を経た後は、年齢が10歳前後になり身体は脂肪がなく痩せていて、肉質もB2ランクと劣る位置づけ。廃用牛という取り扱われ方をされ加工肉やミンチ肉になっていきます。生家が肉屋を営んでいた社長の石飛修平さんは小さい頃から経産牛の肉を食べて育ちました。「商品にはならないけれど赤身がとても美味しい」という思いを持つようになったといいます。
経産牛の肉がおいしくなる理由は長生きをすること。長く生きることによって旨み成分アミノ酸が増すからです。「経産牛をきちんと飼育して食肉としての品質を上げれば、新しい価値のある牛肉が提供できる」と石飛さんは考えました。しかし手がける人はほとんどいません。飼育のマニュアルもなければ適したエサもない。商品価値の低い経産牛をわざわざ手間をかけて再飼育するなど畜産業界のセオリーからは外れたことでした。「畜産業を取り巻く環境は厳しく、改革をしないと畜産の明日はない。夢を見れる畜産、次世代に続く畜産のためにも経産牛に懸けよう」と石飛さんは決意し雲南市大東町に自らの農場を7年前に立ち上げ、経産牛専門の飼育マニュアルの確立や理想的な飼料づくりに取り組みました。自社製飼料は近隣の食品メーカーから本来捨てられるはずだった各種麺類や醤油粕・豆腐粕・さつまいもなどをフードロス対策も兼ねて引き取り、ベースである牧草・とうもろこしなどを配合し、酵母菌と乳酸菌、枯草菌をバランスよく加えて発酵させるなど、幾多の試行錯誤の末に完成。ビタミン・ミネラルが豊富なこの飼料は健康な牛づくり、上質な牛肉づくりへの大きなステップになりました。
この農場で生まれた子牛は、しばらく母牛と同じ区画で育てられ成長していきます。
ゆったりと横になったり、くっつきあったり。ここで日々を過ごす雌牛たちはとてもリラックスした様子です。
健やかに育った牛は美味しい!
経産牛の潜在価値を引き出す取り組み
石飛さんの農場ではSDGsの理念に沿う持続可能な畜産への取り組みが随所に見られます。建築端材を再利用した牛舎を案内するスタッフの山本万里絵さんは「健康に育つようアニマルフレンドリーな環境づくりをしています。それから除角など牛のストレスになるようなことはしないというのが基本です」と紹介します。まず牛舎の中の広々とした区画割に驚かされます。通常5〜6頭入るスペースに2頭ほどが入っています。くつろいで横になったり、自由に歩いたりでき、牛が綱につながれていません。それぞれの区画は清潔に保たれ、風が心地よく通り、取材する私たちが近づいても牛たちは恐れたり威嚇したりすることもありません。とても穏やかな眼をしています。「牛たちにもそれぞれ個性があるので相性のいい個体同士を組み合わせて区画に入れます。だから優劣をつけるような喧嘩もしないし飼料の取り合いもしません」と山本さん。この農場では全国各地から経産牛を仕入れます。繁殖牛としての役割を終えた後の時間を健やかに過ごせるよう、育った条件がそれぞれ異なる個体をていねいに管理し、十把一絡げでないそれぞれに合った飼育法を考えます。「手間はかかりますがそうしたやり方が個体の潜在能力を引き出し、結果として上質な肉質につながる」といいます。
牛舎を案内していただいた山本さん。経産牛が健康に過ごせることを第一に心がけています。この仕事に就いてから家畜人工授精師の資格を取得されました。
この農場で飼育された経産牛は関西の販売会社を通して「サステナブル和牛熟」という名で販売されます。味が濃く旨み成分もしっかりある赤身肉で、程よい脂分は食べ疲れないと評され、国内だけでなくヨーロッパ、アジアなど21か国へ輸出され、食品にストーリーを求める海外市場で「新しいジャンルの和牛」として人気となっています。石飛さんは「経産牛の持つ潜在価値を引き出すために最良の飼料や飼育環境を考えた結果、肉質の良さとSDGsへの配慮が両立できた」と喜びます。手がける人がほとんどいなかった経産牛再飼育の取り組みから、畜産の世界に新たな持続可能性と夢のあるストーリーが生まれていました。
※「サステナブル和牛熟」は雲南市のふるさと納税返礼品に選ばれています。
■取材協力
雲南市商工振興課地域産業支援グループ
株式会社熟豊ファーム