シリーズ
『見つけよう、しまねのコト。』

中海に浮かぶ「神秘と美の島」

火山がつくった神秘

 中海の北側に浮かぶ大根島(松江市八束町)は、約20万年前、「大塚山」(標高およそ42メートル)などから流れ出た溶岩によって誕生しました。玄武岩の溶岩は粘り気が少ないため、広く流れ出ることで大根島の特徴である平らな島をつくったのです。
 この平坦な島の地下には、「淡水レンズ」と呼ばれる大きな水がめがあるとされています。淡水レンズとは、雨や雪が浸透した淡水と中海から浸み込んだ汽水が混ざり合うことなく地下で分離し、断面を見ると凸レンズ状に浮いていることからそう呼ばれています。淡水は、汽水と比べると比重がわずかに小さく、汽水面に浮くためにこのような現象が起こります。
 島内の数カ所で淡水レンズから水が湧き出し、飲用水や生活用水として利用されてきました。淡水レンズの湧き水は、島の集落の形成に大きく貢献したと考えられており、島の人にとってなくてはならない「命の水」となってきました。
 また、島には「波入の湧水」とよばれる淡水レンズの湧き水によってできた池があります。この湧水は、歴史の泉として島根県の名水百選にも指定されており、今でも様々な用途に活用されています。

淡水レンズと人々の努力が
咲かせる美しい牡丹の花

 大根島は「牡丹の島」として知られています。島に牡丹がもたらされたのは約300年前、全隆寺(八束町波入)というお寺の住職が現在の静岡県秋葉山から持ち帰ったのが始まりと伝えられています。
 大根島の土は、大山や三瓶山からもたらされた火山灰由来の黒ボク土。黒ボク土は、水はけや通気性が良い上、有機物を多く含んでいるため、牡丹の栽培に適していました。しかし、川のない大根島では水を入手するのが困難です。いくら栽培に適した土壌でも水がなければ作物を育てることはできません。そこで利用したのが淡水レンズの湧き水。この水は、牡丹にとっても「命の水」だったのです。
 牡丹の栽培は、芍薬の根に牡丹の芽を接ぐ方法が用いられていますが、芍薬の台木作りに2年、接ぎ木をして植えたのち1年でようやく出荷と、多大な時間と労力を必要とします。現在、約70戸の栽培農家が存在し、品種改良にも力を入れています。毎年新しい牡丹が生み出され、島内で栽培される品種は500種類以上。春になると赤、黄、紫など色とりどりの牡丹で彩られます。大輪の花が咲き誇る光景は、牡丹の別称「百花王」の名にふさわしく、人々の心に癒やしと感動を与えてくれます。