シリーズ
『見つけよう、しまねのコト。』

出雲杜氏
丁寧に育まれ、磨かれてきた出雲杜氏の酒造り

郷土の味と調和する
「どっしり」とした酒

 杜氏とは、酒造りの職人の長のことをいいます。かつては、春から秋にかけて農業に従事し、冬の農閑期に蔵元へ出向いて酒造りを行っていました。その後、派遣される蔵元の選定や技術の共有化が行われるようになり、自然発生的に杜氏集団が生まれたと考えられています。

 島根県には出雲杜氏と石見杜氏の二つの杜氏集団があり、出雲杜氏は出雲地域内で技術的な発展を遂げ、石見杜氏は石見地方を中心に酒造りを行っています。
 島根県東部や隠岐などの14の蔵元(酒造会社)を中心に構成される出雲杜氏組合は、大正5年に「秋鹿杜氏組合」として創設され、現在は杜氏のほか頭や酛氏など35人が所属しています。

 日本酒の味わいを表すものとして、日本酒度や酸度などがあります。日本酒度は日本酒の辛口・甘口を表す数値で、糖分の量に影響されます。また酸度は日本酒の酸味を表す数値で、数値が高いほど濃厚辛口、低いほど端麗甘口になるとされています。
 出雲杜氏の酒は酸度が高く、アミノ酸由来のうま味や甘味、渋み、苦味などがバランスよく混ざり合ったどっしりとした味わいが特徴。口当たりがやわらかくスッキリとした端麗なものとは異なり、口に含むと複雑な味が広がります。このどっしりとした味わいの日本酒は、濃い味付けの料理にも負けない力強さがあり、刺身醤油などに使われる濃厚な再仕込み醤油ともよく調和します。

麹へのこだわりから
生み出される重厚な味

 酒造りの重要な工程を表す「一麹、二酛、三造」という言葉があります。米のデンプンを糖に変化させる「麹」、糖のアルコール発酵を促す酵母を培養した「酛」、蒸した米に麹・酛・水を加えて醪を仕込む「造」。特に重要となるのが麹造りとされ、出雲杜氏も力を入れる工程です。蒸し米に種麹(麹の元になる菌)を振り、麹を育てます。米の水分量によって麹のできが変わるため、米を蒸す前の吸水時間や種麹の量の加減には繊細な技と経験が必要とされています。

 「酛」は「酒母」ともいい、先程の麹に酵母、蒸し米などを合わせたもので、糖を分解してアルコールを生み出すことから、まさに酒の「元(母)」と言えます。次にこの酛を利用して、醪を仕込む「造」に進みます。「造」の段階では、アルコール発酵が序盤から勢いがあると酸度が高まるため、米のやわらかさや仕込み水の温度などにも気を配り、一つ一つ丁寧な仕事をすることでどっしりとした日本酒を造っていきます。

 米の粒がやわらかいと発酵の際に溶けやすく、重厚な味になります。硬い米は溶けにくく、軽やかな風味に。2020年の夏は気温が高く、全体的に米粒が硬い傾向にあるため、多層的で複雑な味を醸し出してきた出雲杜氏の腕の見せ所です。

 造酒屋の軒先の杉玉は、新酒ができあがるとともに新しいものに取り替えられます。新酒への期待に胸膨らませ、好みの味を探求するのも楽しいでしょう。